「豊臣兄弟!」と「足利兄弟!」 (CEOブログ)

今日でも、「ビジョンを語る創業社長と、実務を取り仕切る優秀な親族(弟など)」という体制の企業によく遭遇します。業績が伸びているフェーズでは、この効率的な体制は非常に機能しているように見えます。しかし、構造化思考を用いてこの権力機構を整理すると、極めて属人的で不透明なリスクが存在しているのも事実であります。

歴史上の事例として、今話題の「豊臣兄弟!」豊臣秀吉・秀長兄弟と、「逃げ上手の若君」に登場する足利尊氏・直義兄弟のケースを参照します。最新の研究が示す通り、豊臣秀長は西国の軍事や外交を単独で回す「共同経営者」であり、足利直義は初期室町幕府の訴訟・行政システムを構築した「システム設計者」でした。両政権は、この優秀な弟の存在によって急拡大を遂げています。

しかし、両組織は最終的に機能不全と内部対立を引き起こしました。この事実から、同族経営における以下の変数を抽出します。

1. 権威の源泉と法的根拠の欠如(秀長モデルの限界)

秀長が保持していた強大な実務権限は、株式の保有比率や取締役会での議決権といった法的ガバナンスに基づくものではなく、「創業者の同母弟である」という事実のみに依存していました。特定個人の関係性に依存した業務執行体制は、その担当者が欠落した場合、代替が困難です。実際、秀長の死後、大和・紀伊の統治や外交窓口は機能停止しました。そればかりではなく、かけがえのない実弟の抜けた穴は、ついぞ豊臣家滅亡まで埋められることはありませんでした。
今日のM&Aの監査(Audit)などにおいても、業務フローが特定の親族に依存し、マニュアル化やシステム化されていない状態は、企業価値のマイナス評価につながります。

2. 二重ルールの並立とルールの侵食(直義モデルの限界)

足利直義は、いち早く平時対応の、証拠に基づく客観的な法秩序を組織内に構築しようと努めました。しかし、未だ平時とは言いかねる戦乱の続く世相にあって、武家の棟梁である尊氏は、そのシステムの外側で独自の恩賞授与(恣意的な経営判断)を行い続けました。トップが自ら承認した社内ルールを、トップ自身の権限で例外として処理し続ける状態です。これは今日でも「あるある」ですね(笑)結果として、現場の人間は直義のシステムではなく、尊氏の直接的な利益提供に従い、組織は二分されました(観応の擾乱)。

ギャップ分析 (Gap Analysis)

同族経営企業が持続的な成長、あるいは将来的なバイアウトを目指す場合、現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)の乖離を埋める手順が必要です。

評価軸現状 (As-Is): 同族依存型あるべき姿 (To-Be): ガバナンス確立型乖離を埋めるロードマップ
意思決定トップの直感と親族間の口頭での合意取締役会による可視化された決議外部取締役の招聘、稟議システムの導入
権限委譲優秀な親族への不透明な業務委任職務権限規程に基づく権限と責任の分離業務プロセスの構造化と、親族外役員への権限移行
ルール適用トップや一族は社内ルールの適用外(例外処理)全員に同一のコンプライアンス基準を適用トップの決裁権限に制限を設ける非対称な監査設計

優秀な親族がNo.2にいることは初期の強力な推進力になります。しかし、スケール期においては、トップは自らの権限行使を制限するシステムを許容し、No.2は自らの実務を属人化させず、外部の人材やITシステムに置き換えていく自己否定のプロセスが求められます。

この歴史上有名な2つの兄弟の事例は、そのことを雄弁に語ってくれております。