「次の次の飯のタネ」と、半歩先の美学 (CEOブログ)
先日、経済産業省から非常に興味深い、いささか野心的すぎるかもしれない計画が聞こえてきました。AIや核融合のさらに先、日本の未来を担う「次の次の飯の種」として、6つのフロンティア領域の実用化を支援するというのです。
「次の飯」を必死に探している企業が多い中で、「次の次」とは随分と気の長い話にも聞こえますが、経営者としてこのトレンドを無視するのは、些か無粋というものでしょう。

ラインナップはまるでSF小説の目次のようです。「海洋ロボティクス」「海洋CDR」「天然水素」「量子センシング」「フロンティアマテリアル」、そして「ブレーン・ニューロテック」。
南鳥島の深海でレアアースを掘り、長野の白馬で湧き出る天然水素をエネルギーに変え、脳とデジタルを直結させる。資源のない日本が「資源大国」に生まれ変わり、地球課題を解決するというシナリオには、確かに胸を躍らせる壮大な「物語(ナラティブ)」があります。
しかし、ここで少し冷静になるのが我々の仕事です。
かつてわたしが身を置いていたエンタメの世界には、「半歩先はヒットするが、一歩先は理解されない」という不文律のような感覚がありました。かの視聴率男、萩本欽一さんがよくおっしゃっていましたね。大衆の欲望や技術の進歩を読み違え、あまりに早すぎるタイミングで投入された企画は、それがどれほど優れていても「早すぎた傑作」として葬り去られます。ゲームだと「スペランカー」みたいなものです。いや、あれはタイミングの問題ではなかったかも…(笑)
ビジネスの世界も同様です。私はこれまで、数多くの優れたスタートアップや新規事業が「早すぎる」という理由だけで、「死の谷(Valley of Death)」に消えていくのを見てきました。とりわけ、この日本という国においては…。
今回の6つの領域は、AIのようなソフトウェアと異なり、深海、宇宙、極限環境といった「物理的実体(Atom)」を伴うものばかりです。実用化まで10年、20年とかかったかつてのPCやスマホと同様、あるいはそれ以上に時間軸が長く(思いのほか、早い気もしますが)、死の谷も極めて深い。まさに「二歩も三歩も先」の世界です。
だからこそ、国は2026年から懸賞金型の支援事業を始め、リスクマネーを供給しようとしているわけですが、我々、イーロン・マスクっぽくないビジネスパーソンはこの「ゴールドラッシュ」にどう対峙すべきでしょうか。
正攻法で深海掘削や脳科学に挑むのは、選ばれた勇者に任せればいい。我々の勝機は、彼らが共通して必要とする「周辺技術」や「実装支援」にあり、ではないかと思います。
いわゆる「ゴールドラッシュのツルハシ」戦略です。
深海でも壊れない通信モジュール、量子計測を支える極低温冷却技術、あるいは倫理的な壁を突破するためのルールメイキング。こういった「ツルハシ」を提供するポジションこそが、手堅く、かつ高収益な事業になり得ます。ついでに、リーバイスも履いちゃいましょう!
また、経産省の幹部が「やめるべきはやめ、新しいものを取り入れる」と発言している点も見逃せません。これは裏を返せば、国としても「どれが当たるかわからないよ」と認めているということです。
この不確実性を逆手に取ることです。
「天然水素」そのものを掘り当てる必要はありません。水素が出るかもしれない山に、誰よりも早く「ここは有望だ」という看板を立て、地図を売る。それが戦略家の腕の見せどころです。
かつて1980年代、日本が世界を席巻していた時代、この国には「無いものを作る」熱気に溢れていました。AIの次は、再び「モノ」と「物理」の時代が来ます。情報の波に溺れることなく、しっかりと実体のある「次の次の飯のタネ」の匂いを嗅ぎ分けていきましょう。
もちろん、どの山に登るべきか、あるいはどのタイミングで「半歩」を踏み出すべきか。微力ながら、そんな「正解のない問い」を肴に、ああでもないこうでもないと未来を語り合う時間でしたら、いつでも大歓迎です。


